回路技術

トランジスタ(2SC1815)によるベース接地回路【1】:電圧増幅回路の実験とLTSpiceによるシミュレーション

入社して、早くも11か月目です。
人生というものが、まるで永遠であるかのように錯覚していたこともありましたが、やはり現実は遅々としていても、進んでいるのだなぁ、ということが身に染みております。

さて、今回は、簡単なベース接地回路の実験を行いました。
エミッタ接地に関する情報は結構あるのですが、ベース接地となると途端に減りますね。
ネットで詳細なベース接地の実験等をやってる人をあまり探せませんでしたし、教科書とかもベース接地に関しては非常に薄い解説なのです。

今回の目的は、簡単なベース接地の簡単な回路の実験およびシミュレーションをすることで電圧増幅を確認することです。
副次的には、ベース接地回路というものにまずは慣れることを目標にします(僕自体が初めてなのです)。
回路の勉強をしていて思うのは、細かいことはさておき、まずは全体的な振る舞いを体感する方が理解が早い気がしております。

回路図と回路解析

ベース接地回路図図1 ベース接地回路図

ベース接地回路とは?

エミッタ接地回路は、電子回路をやる人はかなりの確率で最初の方にやるはずなので、雰囲気わかっていることと思います。
上記に当てはまる方は、一つ比較すべき回路が頭にあるので、理解が容易になるかもしれません。その場合は、是非エミッタ接地回路図と並べてみることをお勧めします。

1. ベース接地とは、読んで字のごとし、図1を見るとわかるように、ベース側が接地されているということです。
2. エミッタ接地との違いは、入力信号Vinがエミッタ側にあるということです。
エミッタ接地をやった人にとっては、ここが最大の謎だと思いますが、この回路はこういうもんだ、とベース接地に慣れることを目標としましょう。

これらの回路形式の為、入力抵抗が低いということが、利点として挙げられます。
この入力抵抗が低いということが、多くのメリットを生むのですが、それは今後検証していきましょう。(現時点で、僕も明確に理解していません。)

\(V_{\rm in}\)の10倍の\(V_{\rm out}\)を得るための設計

\(V_{\rm out}\)の振幅が\(V_{\rm in}\)の10倍になるような回路の設計をしてみましょう。

まずは、トランジスタの基本的な式である、
\begin{align}
I_E = I_B + I_C\tag{1}
\end{align}

これは、エミッタにベースとコレクタの電流が流れ込むことを表しています。

次に、\(V_{\rm out}\)を上図から出してみましょう。
オームの法則から、\(V_{\rm CC}\)から、R2で電圧降下した値が\(V_{\rm out}\)になるはずですから、

\begin{align}
V_{\rm out} =  V_{\rm CC} – R_2I_C \tag{2}
\end{align}

ここで、ベース接地増幅回路の電流増幅率はほぼ1なので、
\begin{align}
I_E  \simeq   I_C\tag{3}
\end{align}
となります。

トランジスタのエミッタとベースを繋ぐ回路を見てみると、キルヒホッフの法則より
\begin{align}
V_{\rm in} + R_1I_E + V_{\rm BE} = 0\tag{4}
\end{align}
となりますね。
これを変形すると、
\begin{align}
I_{\rm E}  = \frac{-V_{\rm BE} – V_{\rm in}}{R_{\rm 1}}\tag{5}
\end{align}

式(5)を式(2)に代入します。(ここで、\(I_E \simeq I_C\)を使います)
\begin{align}
V_{\rm out} =  V_{\rm CC} – R_2I_C = V_{\rm CC} + \frac{R_{\rm 2}}{R_{\rm 1}}(V_{\rm BE} + V_{\rm in})\tag{6}
\end{align}

定数をまとめてCとおきますと、式(6)は、
\begin{align}
V_{\rm out} = \frac{R_{\rm 2}}{R_{\rm 1}} V_{\rm in} + C\tag{7}
\end{align}

この式から、交流信号の振幅(\(V_{\rm in}\))は、\(+\frac{R_{\rm 2}}{R_{\rm 1}}\)倍に増幅されることがわかります
入力信号の10倍の振幅を得たい場合は、二つの抵抗の比が、10になるように設定してあげればよい、ということになりましょう。
ここでは、\(R_{\rm 1}\ = 1 {\rm k}\Omega\), \(R_{\rm 2}\ = 10 {\rm k}\Omega\)として、実験およびシミュレーションしてみましょう。

具体的な\(V_{\rm CC}\), \(V_{\rm in}\)と\(V_{\rm out}\)の決定

入力信号は交流波ですが、ここで気を付けなければならないのは、ベース側が接地されているので、エミッタ電流を図のように流すには、エミッタ側の電圧が0 Vを下回っていなければならない点です。

トランジスタをONするには、\(V_{\rm BE}\)が0.6~0.7 V程度必要になります。
また、ベース側より、エミッタ側の方が低い電圧になるので、最低でも-0.6 Vの直流が必要です。
なので、直流電圧を-1 Vに設定し、振幅を0.1 V, 周波数は10 Hzの波を印加してみましょう。
式で表すと、

\begin{align}
V_{\rm in} = -1 + 0.1\sin \omega t = -1 + 0.1 \sin(62.8t)\tag{8}
\end{align}

となります。

次に、抵抗の定数と式(8)および\(V_{\rm BE} = 0.6\)を式(6)に代入して、\(V_{\rm CC}\)を求めてみましょう。
\begin{align}
V_{\rm out} = V_{\rm CC} + 10(V_{\rm BE} + V_{\rm in} =V_{\rm CC} +6 – 10 + \sin(62.8t) \\
= V_{\rm CC}  – 4 + \sin(62.8t) \tag{9}
\end{align}
この式より、\(V_{\rm CC}\ = 5 {\rm V}\)に設定したら、1 Vを中心に振幅1Vのsin波が振動するはずです。

つまり、最終的には
\begin{align}
V_{\rm out} =1 + \sin(62.8t) \tag{10}
\end{align}
になるはずです。
直流成分1 Vを中心にして、波が振動するという予想であります。

回路定数が決まりましたので、早速シミュレーションしてみましょう!

LTspiceによるシミュレーション

シミュレーションの回路図

シミュレーションでは、1秒の間、電圧や電流を計算する、という命令をさせて、時間に対する電圧と電流の変動を見ます。
それが、図2左下にある.tran 1sという命令です。

また、入力する交流は、オフセットで-1 V にしておきます。
その理由は、ベース接地の場合、ベースが0 Vに接地されていますので、それより低い電圧にしなければトランジスタがオンにならないからです。
最低でも、\(V_{\rm BE}\)が0.6 ~ 0.7V以上ないとトランジスタはONになりません。
そのため、R1の電圧は-0.7 V以下である必要があります。
ということで、\(V_{\rm in}\)のオフセットを-1 Vに決めたわけです。
振幅が0.1 Vなので、最大でも-0.9 V以上にはならないので、十分トランジスタはONになるはずです。

 

その他、LTspiceのインストールの方法や命令の仕方は、他の記事に詳細に載せているので、そちらを参照ください。
LTspiceのインストール方法
NPNトランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【1】の「LTspiceによるシミュレーション」に載せてあります。

また、LTspiceでは2SC1815モデルを登録してシミュレーションに使用することが出来ます。
その方法を以下の記事の「LTspiceによるシミュレーション(2SC1815モデルの追加)」で紹介しておりますので参考にして頂ければ!
トランジスタ(2SC1815)を2つ使った定電流回路のシミュレーションと電子工作・その結果

シミュレーションに用いた回路図2 シミュレーションに用いた回路

 

シミュレーション結果

シミュレーション結果を見てみますと、出力波形は、確かに入力波形を増幅したものとなっております。
また、山と谷の位置は変化していないので、入力波形と出力波形の周波数に変化はなさそうですね。
\(V_{\rm in}\)と\(V_{\rm out}\)の振幅の増幅率を見てみると、およそ9倍になっていることがわかります。
グラフをもとに、\(V_{\rm out}\)を数式に表すと、

\begin{align}
V_{\rm out} = 1.6 + 0.9\sin \omega t \tag{9}
\end{align}

\(V_{\rm BE}\)も確認すると、バイアスが-0.7 Vを中心に振動しており、トランジスタがONしているということがわかります。
オフセットが、-1 Vあるということが効いております。
式(9)と比べると、まず直流の値がだいぶ異なっていることがわかります。
振幅も数値解析とは異なっていることがわかります。
この原因はいずれ追及せねばなりませんが、後ほど比較シミュレーションしてみます。

ベース接地回路における、入出力波形およびベース電流波形図3 ベース接地回路における、入出力波形およびベース電流波形

ベース接地では、入力\(I_{\rm E}\)と出力\(I_{\rm C}\)の比率が電流増幅率として定義されています。
これはベース接地では、ほぼ1だと言われております。反転もしないことから、ほぼ同じ波形になるということです。
一応、波形を調べてみますと、ほぼ同じであるということがわかります。
このことから、電流はR2からR1へ一方向に流れているということがわかります。

エミッタ電流とコレクタ電流図4 エミッタ電流とコレクタ電流

 

回路解析とシミュレーション結果がそこそこ違う原因の端緒を探るべく、\(R_{\rm 1} = 10 {\rm k\Omega}\),\(R_{\rm 10} = 100 {\rm k\Omega}\)として再計算させてみました。
この抵抗値なら、\(+\frac{R_{\rm 2}}{R_{\rm 1}}\ = 10\)となるはずですので、結果は変わらないはずです。
シミュレーション結果を見てみますと、振幅に変化はほぼありませんが、直流成分がだいぶ下がって、回路解析の1 Vに近づいていることがわかります。
一応、シミュレーション結果から、今回の出力波を立式しておきますと

\begin{align}
V_{\rm out} = 1.2 + 0.9\sin \omega t \tag{10}
\end{align}
となります。
抵抗の比率は変えていないけれど、値を変えると直流成分が変わるということがわかりました。
ということは、上記の回路解析では、まだ定量的に拾うことが出来ていない理論があるということです
この差を埋めるためには、もう少し勉強が必要だと思いますので、わかり次第載せていきます。

実験の様子および使用装置一覧

部品一覧

セット購入の部分ですが、よく使う部品がいっしょくたにまとめられて売っているセットがあるので、それを買った方が楽だと思います。
たぬし氏はOsoyooの電子工作部品セット(2080円)を使っています。
装置がそろっている場合は、2095円で実験できます。

部品 会社・型番 値段
オシロスコープ RIGOL DS1054Z  
ファンクションジェネレーター RIGOL DG1022A  
直流安定化電源 CUSTOM社 DPS-3003 14091円
フレッドボード 秋月電子 BB-2T2B 600円
テスター 三和 CD731a 7980円
1 kΩ抵抗 × 1   セット価格
10 kΩ抵抗 × 1   セット価格
NPNトランジスタ × 1 Toshiba社 2SC1815 セット価格
総計   22671円

 

 

CD731aは絶版で売られていないので、もう一つは僕が使っていておすすめかつ2018年現在最強のテスターの一つである三和のPC7000を載せておきます。

実験写真と実際の回路図

ファンクションジェネレータの入力波形の画面を載せておきます。
後で、実際の入力に勘違い生じたら困るためであります。(実際今回ありました。)

f = 10 Hz
VPP = 200 mV
Offset = -1 V

で設定。
VPPは振幅ではなく、波のトップとボトムの差になっている(振幅 × 2)ことが、重要ですね。
最初、勘違いして振幅だと思って入力していました。

ファンクションジェネレータの設定図5 ファンクションジェネレータの設定
実際の実験回路図6 実際の実験回路
fritzingによる回路図図7 fritzingによる回路図

実験結果

交流成分の測定

実際の波形をオシロスコープで観察しました。
黄色が入力波形\(V_{\rm in}\)で紫が出力波形\(V_{\rm out}\)です。
縦軸の1メモリ(1つの大きな正方形の高さ)は200 mVでスケールを揃えてあります。
紫のメモリをおおよそで読むと、8メモリ程度なので、peak to peakで1.6 V程度はあるようです。
測定して、定量的に見てみましょう!

実験結果のオシロスコープ写真図8 実験結果のオシロスコープ写真

 

まず注目したいのは、CH1はファンクションジェネレータで200 mVに設定したのにもかかわらず、オシロスコープで計測した\(V_{\rm PP}\)は224 mVであり、24 mV大きいということです(以下図9)。
ファンクションジェネレータ側にも、オシロスコープ側にも誤差がありますので、これらの誤差が重畳された結果になっているはずです。
それにしても、24 mVの誤差というのは大きい気がしますので、後ほど原因を調べてみます。
電圧の増幅率を\(V_{\rm PP}\)から計算してみますと7.5倍ですので、回路解析の結果とはだいぶ異なる結果ということがわかりました。
振幅は\(V_{\rm PP}\)の半分なので、0.84 Vとなります。
また、周波数は10 Hzで変化しておらず、山と谷も同じ位置にあり、位相はずれていません。
このことから、同相増幅であるということが判明し、これは回路解析と一致した結果であります。

実験結果のオシロスコープ写真(測定結果)図9 実験結果のオシロスコープ写真(測定結果)

実験結果と回路解析に、大きな差がありますので、回路理論にもう少し深みが必要であるということがわかります。
もう少し深めたら、その結果を随時載せていこうと思うております。

 

直流成分の測定

2019年2月17日追記

上記の交流成分の測定で、増幅しているということはわかりましたが、直流成分はどうなっているのか?と言うのが定かではありませんでした。
そこで、テスターを用いて、直流の電圧を測定しましたので回路図と共に載せておきます(図10)。

ベース・エミッタ間電圧とベース・コレクタ間電圧は、ベース側にテスターの黒いプローブ(GND側)を当てて測定しました。
そのため、電圧に符合が付いております。

その他の測定は、電位差ということで、符合なしの測定になっております。
直流成分の\(V_{\rm out}  = 1.84{\rm V}\)ということがわかりましたので、先の交流測定と足しわせることで、\(V_{\rm out}\)がわかります。

\begin{align}
V_{\rm out} = 1.84 + 0.84\sin \omega t \tag{11}
\end{align}

シミュレーション結果では、式(10)\(V_{\rm out} = 1.6 + 0.9\sin \omega t\)でしたので、直流分が0.24 V程度ずれております。
振幅もずれているけれど、これは実験の精度内の誤差なのかなー。
ここら辺は、装置の誤差や測定の誤差をそろそろ真面目に考えていかなきゃならんということなのでしょう〜

例えば、\(V_{\rm CC}\)は5 Vに設定していましたが、実測では5.05 Vでありました。
また、\(V_{\rm in}\)の直流成分は-1.0 Vに設定していましたが、実測では-0.936 Vであります。
つまり入力の時点で、既に少しずれているのです。
このような誤差が積み重なって、ある程度誤差が生じているものと思われます。

精密な設計となると、このような誤差は許されないものでしょうが、そのためのノウハウはいずれマスターした後にでも紹介出来たらと思います。
今は、まだ基礎回路の研究を続けていこうと思います。

直流成分の測定結果図10 直流成分の測定結果

 

 

電流の流れと直流成分の増幅

2019年7月30日追記

シミュレーションの結果、図4のように電流の増幅率はほぼ1であります。
R2からR1へと同量の電流が一方向に流れています(注:実際にはベース電流が追加して流れ込みますが、コレクタ電流と比較して非常に小さい)。

直流成分だけをみると、直列に電流が流れているのを、R1とR2で分圧していることになります。

R1、R2にかかる電圧をみてみると、きちりと抵抗の比率通りに増えており、R1抵抗1 kΩ : R2抵抗 10 kΩ = 0.321 V : 3.21 Vとなっておることが確認できますね。

コレクタ接地回路の回路の動作についても検証しました。
この回路が3つの接地回路の中で一番意味不明だったのですが、何が一番肝なのかを載せておりますので興味ある方はぜひー!

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