アナログ回路を0から学び始めて、8ヶ月目に突入しました。
最近、やっと少し理解出来る部分が増えてきたところであります。
けれど、まだ触れてすらいない素子とかもたくさんありますし、先は長いと感じております。デジタル回路とかは、まだ勉強すらしていない状態です。
さて、最近トランジスタの負帰還について勉強していますが、ものの本によりますと、よくベース電圧の温度依存性が回路の安定性の問題になっておりますので、シミュレーションしてトランジスタの静特性とその温度依存について、頭を整理してみようと思います。
初めてトランジスタをやる人向けの記事ではなく、エミッタ接地増幅回路など、実際にトランジスタを動かして波形や測定をちょっとでもしたことがある初心者向けの記事になると思います。
目次
トランジスタの特性の調査
シミュレーション条件
今回のシミュレーション条件と回路図を示しておきます。
図1の回路で、V2を変化させて、トランジスタをONにします。
徐々にV2(そのまま\(V_{BE}\)となります)を上げて、\(I_{\rm B}\)や\(I_{\rm C}\)がどのように変化するかを調べてみましょう。
- 3パターンの温度(-25℃、25℃、100℃)
- V1は6 Vで固定
- V2を0 ~ 6 Vまで10 mV間隔で振る
それぞれに対応する、LTspiceでの命令は、
- .step .temp list X1 X2 X3
- 回路図のV1の下に6 (V)と書く
- .dc 対象の電源の名前 始めの電圧 終わりの電圧 刻み値
となっております。1. は、単に変数Xに計算したい温度を書いていくだけです。
2は図1の回路図を見ていただくとわかると思います。V1の下側に6と書かれている、その値です。
3は、.dcは直流を意味しております。
直流の電源で変化させたい電源を選びまして、(ここではV2)シミュレーションしたい電圧領域(ここでは0 ~ 6 V)をどれくらいの間隔で計算させるか?(ここでは10 mV刻み)を指定します。
これで、LTspiceの命令の設定は終了です。

\(I_{\rm B}\)-\(V_{\rm BE}\)特性の理論的背景
トランジスタのベース電圧は、ダイオードで言うところの順方向(P → Nの方向)に電圧をかけていますので、基本的にダイオードの順方向の物理で議論することが出来ます。
\begin{equation}
I = I_{\rm S}\times {\rm exp}{\frac{V}{mV_{\rm T}}}
\end{equation}
\begin{equation}
V_{\rm T} = \frac{kT}{q}
\end{equation}
\(I_{\rm S}\) : 飽和電流
\(V_{\rm T}\) : 熱電圧
\(q\) : 素電荷 (\(1.602176 \times 10^{-19} \rm C\))
\(k\) : ボルツマン定数 (\(1.380648 \times 10^{-23} \rm JK^{-1}\))
\(T\) : 絶対温度
\(m\) : エミッション係数
で表せます。
\(V_{\rm T}\)は熱電圧と呼び、室温で約26 mVです。
室温では T = 300 Kを代入してみると、
\(V_{\rm T} = 300 \times 1.380648 \times 10^{-23} / 1.602176 \times 10^{-19} = 25.85 \rm mV\) となりました。
\(m\)はエミッション係数と呼び、電流が流れるための電荷の数と割合に依存する係数で、通常で1~2の値を取るようです。
飽和電流\(I_{\rm S}\)は、温度に依存する定数で、室温では、\(10^{-12} – 10^{-18} \rm A\)程度のようです。
今回、m = 1とすると、\( V = V_{BE}\)なので、トランジスタの\(V_{\rm BE}\)と\(I_{\rm B}\)の関係式は、
\begin{equation}
I_{\rm B} = I_{\rm S}\times {\rm exp}{\frac{V_{\rm BE}}{V_{\rm T}}} \tag{1}
\end{equation}
と具体化されます。
基本的には、この関数の形をしたグラフが現れるはずです。
データシートとLTspiceで見る2SC1815 の\(I_{B}\)-\(V_{BE}\)特性
東芝のデータシートを眺めますと、0.4 ~ 0.6 Vあたりから急激に\(I_{\rm B}\)が流れ始めることと、温度が上昇すると\(V_{\rm BE}\)が小さくなるという2つの特徴が見て取れます。
つまり、\(V_{\rm BE}\)には温度依存があるということなので、確かに回路上でふらふらと安定しない(定電圧で近似できない)ということがわかります。

さて、東芝の出したデータシートとグラフのスケールを揃えて、LTspiceで計算した結果をグラフソフトで書き直してプロットしてみました。
図2のグラフとだいぶ挙動が異なることが見て分かります。
けれど、条件を完全に揃えられたわけではなく、\(V_{\rm CE} = 6 \rm V\)という条件はシミュレーションと異なります。
\(V_{\rm CE} = 6 \rm V\)に固定して計算することは可能なのかどうか知りたいところです。
とはいえ、\(V_{\rm BE}\)が2 Vの時でさえ、\(V_{\rm CE}\)は4 Vもあるので、必要十分であり、特性に影響を与えるのか?と疑問視しております。
そこは置いていて、相違点を見てみますと、\(I_{\rm B}\)が0.3 μA流れる時の\(V_{\rm BE}\)の値がデータシートと異なっています。
温度が高い方が、\(V_{\rm BE}\)が低くなるという傾向はデータシートと一致していますね。
また、本シミュレーションでは、\(I_{\rm B}\)が100 μA以上流れると大きく傾きが小さくなって飽和していく傾向が見て取れます。
この点も、データシートと大きく異なる点ですが原因は謎です。

次に、この2つの軸を逆転させて縦軸をベース・エミッタ間電圧、横軸をベース電流にしてグラフをプロットしてみます(図3)。
logでプロットしない場合、各温度とも、飽和していく様が綺麗に見て取れます。
T = 25℃の時、直線で外挿した値を見てみますとおよそ0.7 Vとなります。
これが、トランジスタがONになる時の電圧、というわけです。
けれど、ベース電流が上昇すると、\(V_{BE}\)は微妙に上昇している様も観察できます。
すなわち、\(I_B\)が増えると、\(V_{BE}\)も増えるということです。

2SC1815 の\(I_{\rm C}\)-\(V_{\rm BE}\)特性
次に、データシートで\(V_{\rm BE}\)と\(I_{\rm C}\)の関係を眺めてみます。(図5)
温度は25℃で\(I_{\rm C} / I_{\rm B} = 10\)、すなわち増幅率が10倍の時に固定、という条件ですが、これどうやって測ったの!?という疑問が湧いております。
このように、条件を揃えて、測定すると、\(V_{\rm BE}\)が\(I_{\rm C}\)に依存するということを示しております。
\(I_{\rm C} = h_{\rm FE}I_{\rm B}\)なので、上述した式と合わせますと、
\begin{equation}
I_{\rm C} =h_{\rm FE} I_{\rm S}\times {\rm exp}{\frac{V_{\rm BE}}{V_{\rm T}}} \tag{2}
\end{equation}
となります。
両軸とも対数グラフになっておりまして、コレクタ電流\(I_{\rm C}\)が増えるに従い、\(V_{\rm BE}\)が徐々に上昇しております。
式(2)をみると、妥当なのかなー。このデータシートでは、温度一定なので、\(I_{\rm S}\)も一定、\(V_{\rm T}\)も一定、ということで、\(V_{\rm BE}\)と\(I_{\rm C}\)が一対一対応で変化していくのですね。
\(h_{\rm FE}\)は増幅率が一定の区間では定数として扱うため、\(I_{\rm B}-V_{\rm BE}\)特性とグラフ概形は変わらないはずです。
ということで、シミュレーションでは、二つの特性を並べて比べてみます。

図6が(\(V_{\rm BE}\)-\(I_{\rm C}\)特性と(\(V_{\rm BE}\)-\(I_{\rm B}\)特性を、シミュレーションで計算させて並べてみたグラフであります。
両軸とも、対数で表示させておりまして、\(I_{\rm C}\)は\(I_{\rm B}\)の100倍程度の増幅率と考えて、ベース電流は、コレクタ電流の1/100で表示しております。
こうしてみると、大体振る舞いは同じように見えますね。
もう一つ重要な点として、温度が異なれば、\(I_{\rm B}\)、\(I_{\rm C}\)とも(\(V_{\rm BE}\)が大きく異なるという特徴が見て取れます。
\begin{equation}
h_{\rm FE} = \frac{I_{\rm S}\times {\rm exp}{\frac{V_{\rm BE}}{V_{\rm T}}}}{I_{\rm C}} \tag{3}
\end{equation}
となります。
式(2)を、移行して式(3)にしまして、増幅率の温度変化を考えてみますと、う〜ん、数式だけだとちょっとすぐにはわかりませんね!笑
\(I_{\rm C}\)が増えますと、\(I_{\rm B}\)も同様に増えていますし、増幅率が一定ではない部分があると思いますし。
というわけで、プロットしてかつデータシートもみてみましょう。

- \(V_{\rm BE}\)の\(I_{\rm C}\)依存性あり
- 温度により\(V_{\rm BE}\)の値は異なる
2SC1815 の\(I_{\rm C}\)-\(h_{\rm FE}\)特性
さて、データシートで2SC1815 の\(I_{\rm C}\)-\(h_{\rm FE}\)特性を見てみますと、やはり温度依存して増幅率が変化するということがわかりますね。
どうやら温度が高いほど、増幅率はあがるようです。
ということは、回路上でかなり温度変化に対する対策を打っておかないと、回路全体の特性にも影響があるということですので、割と重要な点かと思います。
また、\(I_{\rm C}\)が上昇すると、増幅率が下がるということが見て取れます。
さらに、\(V_{\rm CE}\)の値が異なると、増幅率の落ち方が高電流側で変わってくるというのもポイントです。(点線の\(V_{\rm CE} = 1 V\)の時は、30 mAで立ち下がる)
つまり、コレクタ電流の高電流側(2SC1815では30 mA以上)でトランジスタを安定動作させるには、\(V_{\rm CE}\)に余裕を持たせておく必要がある、ということがわかります。

さて、これもシミュレーションで確かめてみますと、確かに、増幅率はコレクタ電流の高電流側で落ちていることがわかります。
しかし、温度によって増幅率が変わっていないように見えます。(図8右図)
これは、、、、恐れていたことが起きた!という感じですが、LTspiceの温度を振る設定の仕方に間違いがあるということなのでしょうか?
2SC1815のモデルを以前追加した記事を載せましたが、その時の温度に関する項目の設定が間違っていたのかなーと、怪しんでいます。
LTspiceは便利ですが、中身がブラックボックスなので、何をやらせているのか不透明な点がままあり、より精密なシミュレーションをやるには、少し中身を知っておく必要があるのではないか?と感じています。
とりあえず、2SC1815のモデル追加の仕方で、温度に関する項目があるのか?等を調べてわかったら載せていこうと思います。
温度に関する解析があてにならんのではないか?ということになりかねないので、ここは少し追求しておく必要があると思うております。
分かり次第、ここに追記します。

増幅率が温度依存しない問題は、すぐには解決出来そうもないので、置いておきまして、もう一度\(V_{\rm BE}\)-\(I_{\rm C}\)特性を見てみますと、温度が高いと増幅率がでかい事と、\(V_{\rm BE}\)の値には関係があるということがわかります。
\(V_{\rm BE}\)が大きくなればなるほど、増幅率は小さくなるということですね。

特性が多すぎて、頭がこんがらがってしまうのですが、ある程度実験とかをして実感を持ってからシミュレーションすると、そこそこ頭に入ってきます。
なので、初学者は、まずシミュレーションで雰囲気のみ掴んで、深入りせず、その後に実験を行い、再度シミュレーションをすることで、定性的な振る舞いは身に着くのではないかなーと思いました。
まとめ
- 増幅率\(h_{\rm FE}\)は\(I_{\rm C}\)の高電流側で低下
- 温度が高いと増幅率が上昇する(はず。シミュレーションで再現できず)
- \(V_{\rm CE}\)に余裕があると、\(I_{\rm C}\)の高電流側で増幅率が安定する傾向