直流安定化電源…それは男の夢、そしてロマン
電流源においては貴重な直流を、まるで公園にある蛇口の如き安定感をもって吐き出してくれる甘美な装置。
このネーミングにおける「安定」ということばが意味することは、時間が経っても、同じ直流値を出力し続けるということであります。
それは、まるで公園の水のごとしであり、仮に公園の蛇口から出る水が、急に勢いが変わったりしたら困るわけです。
電気界における蛇口、それが直流安定化電源なのであります。
実験においては、非常に重要なファクターを持つ野郎でして、こいつの安定性に我々の実験結果がかかっていることもままあるわけです。
というわけで、僕が所有しているDPS3003なる安定化電源が本当に安定であるのかどうかを、7時間強実測して調べました。
直流安定化電源の安定度測定
DPS3003のカタログスペックと見た目
電気性能 | DPS3003 |
入力電圧範囲 | AC100V±10%(50/60Hz) |
出力電圧範囲 | 1A |
出力電流範囲 | 0~3.0A |
電圧表示部確度 | ±(1%+5dgts) |
電流表示部確度 | ±(2%+5dgts) |
表示方式 | デジタル3.5桁LED表示 |
効率 | 85%以上 |
負荷変動(電圧)(10 – 100%) | 50mV |
入力変動(電圧)(90 – 110V) | 20mV |
リップル&ノイズ(電圧)(P – P) | 80mV |
負荷変動(電流)(10 – 100%) | 20mA |
入力変動(電流)(90 – 110V) | 20mA |
リップル&ノイズ(電流)(P – P) | 40mA |
ヒューズ | 250V 1.5A(φ5 × 20mm) |
出力安定化方式 | スイッチングレギュレーション方式 |
このスペック一覧の中で、出力電圧の安定性に関係がある部分を赤字でマークしておきました。
リップルというのは、明確に回路の物理から導かれる、電圧および電流の振動現象のことで、よく整流回路の説明などに現れております(図1参照)。
特に、直流安定化電源においては、コンセントからとる交流電源をダイオードで整流して、図1のような波形に近づけます。
リップル幅が非常に小さくなれば、直流とみなすことが出来、我々が普段使っている直流ももとは、普通の交流の波から出来ております。
リップルは、回路の計算から理論的に求めることも可能であり、制御できるパラメータです。
図1の矢印で示すように、リップルには幅がありまして、これは小さい方が性能が良いことになります。
このリップルとノイズはプラスされて、80mV = 0.08 Vということなので、それくらいの電圧変動は装置の使用範囲内ということになります。
このリップル測定も、僕持ってるオシロスコープで観測出来たら載せようと思います。

青で示した、電圧表示確度って値の明確な定義はわかりませんが、正確な出力の値からのずれという意味だと思います。
このことから、設定値15 Vに対して実測値では±0.15Vの差があるとのことです。
この値は、誤差にはなる部分ですが、安定性には関係がないので、青としました。
正確な基準となるような電圧が欲しい!という場合は、この値を気にする必要があります。

測定に必要な装置一覧
部品および装置 | 社名・型番 | 値段 |
直流安定化電源 | CUSTOM DPS-3003 | 14091円 |
PCとテスターを接続するUSBケーブル | SANWA KB-USB7 | 7798円 |
専用測定ソフト | SANWA PCLink7 | 7100円 |
テスター | SANWA PC7000 | 24641円 |
パソコン | WindowsならOK | |
オシロスコープ | RIGOL DS1054Z (リップルを見る場合) |
とはいえ、今回はこのオシロスコープはオススメしません。
もうちょっと性能が良いオシロが必要に思います。
安定度測定の方法と実験結果
測定方法
以下に、まずは簡潔に測定方法を載せていきます。
単純に、テスターを直流安定化電源から出てくる、プラスとマイナスに直に繋いで測定します。
その結果をパソコンに送って、長時間測定結果をパソコンに取り組みます。
- DPS3003のプラスをPC7000の赤い端子にクリップで繋ぐ
- DPS3003のマイナスをPC7000の黒い端子にクリップで繋ぐ
- PC7000の裏側にKB-USB7を接続し、もう一方を自分のパソコンのUSBに繋ぐ
- パソコン上でPCLink7を立ち上げる。
- PC7000をONにして、直流測定モードにセット。PC7000と接続を開始
- DPS3003をONにして15 Vにセット。
PCLink7の接続画面を以下に載せておきます。
左のデータ履歴の部分に測定データがずらずらと流れていきまして、もちろん保存も可能です。
この点はグッドですね!
測定結果さえデータとして保存できれば、後に示すようにデータ解析は他のソフトで出来ます。
グラフは見ていただけるとわかるように、拡大に限界があり超使いにくいです。
むしろ、使いにくすぎてびびったレベルです。
しかも、以下のようにみると、悲しいかな電圧の変動が一切ないように見えます。
(図〜と比較してみてください。)
SANWAはテスターなどの測定器は超最強製品なので、ソフトも凄いのかなーと期待していたのがいけなかったのかもしれません。
測定結果を自動で保存するソフトと考える方が良い出来だと思います。
これなら、下手したら自分でソフト作った方がいいかもしれない、と感じています。

測定結果
夜寝る前に測定を開始し、朝起きてから装置を止めましたので、ざっと7時間ちょいの時間測定していたことになります。
横軸を時間、縦軸を直流安定化電源の出力電圧として、グラフにしてみました。
測定を開始する前に、PCLink7を立ち上げていたので、直流安定化電源の電源を入れた瞬間から、測定結果を得ることが出来ております。
グラフ左端の赤い線は、0 Vをプロットしたものです。
さて全体を見てみますと、15 Vにセットしていたのに、15.1 Vを中心としているということに気付きます。
電圧表示確度は±1%なので15 Vに対して、0.15 Vは差があってもOKということで、確かに、使用範囲内ということかぁ~
ざっくり見ると、そんな感じに思いますが、どこでどれほど大きく変化しているかをみたい!ということで、横軸をlogスケールにしてみましょう。

横軸をlogにしたのが図~です。
これによって、変化が見やすくなりました。
電源を投入してから、10分位は装置が安定せず(?)、そこそこ変動があるということを発見しました。
電圧の変化が見やすくなったということで、最大値と最小値の差を出してみましょう。
こいつが、いわゆる安定性の最重要値であります。
\begin{equation}
\Delta V = V_{\rm max} – V_{\rm min} = 15.135 -15.089 = 0.046 {\rm V}//
\end{equation}
ふむ。
リップル + ノイズ = 0.08 Vとうたっていますので、こいつぁ結構優秀な装置や!!と思いました。
まさか、仕様通りに入っているとは思わなかったのです。
また、変動のぶれは、15 Vに対して0.31%であります。
しかし、
「いやいや、俺なんかは0.046 Vも電圧変動あったらマジパネーション的な実験やってんのよ?」
といった猛者が居られましたら、使えません。
先ほども書きましたが、10分電源を入れた後は比較的変動が緩やかなので、10分待ったら装置を使うという選択肢もあります。
ということで、10分以降の部分だけグラフにしてみましょう!

10分以降の電圧変動の結果は以下の図~になります。
そこで、10分経過した後の電圧変動を調べてみますと、0.021 V。
0.14%の変動率(なんて物理量はないと思うけれど)です。
ということで、0.14 %ほどの変動率が致命的ダメージになるような実験以外は、DPS3003をONにして10分経過した後なら使えます。

15 VでDPS3003を7時間30分駆動し、テスターで直流電圧を測定した結果
変動電圧Δ V = 0.046 V
0 ~ 10分まで、電圧は大きく変化することを発見した。
10分 ~ 450分の変動電圧ΔV = 0.021 V
おまけのリップル測定
15 Vではなく、30 Vまであげたら、かろうじてリップル測定が出来ましたので載せておきます。
測定の分解能は、電圧軸が2.00 mV、時間軸が200 μsです。
オシロスコープの自動測定では、幅が何 Vかは測定出来ませんでした。
バックに小さなノイズがたくさん乗ってしまい、グリッド線が消えてしまっているので、目分量での測定もままなりません。
分解能を下げて、測定するとかなり、精度が下がりますが、0.1 V位で波打っておりました。
下の図の電圧の分解能が2.00 mVなので0.1 Vということはありえないと思いますが、正確な値も分かりません。6 mV位だろうか?
電圧の分解能を5.00 mV、時間の分解能は変わらず200 μsで見てみると、よりリップル感がある絵になってきました。

他の直流安定化電源MS305-Dの安定度測定
僕がもう一つ持っている直流安定化電源についても、同様の測定 + 瞬時特性にチャレンジしたので興味ある方はどうぞ!
