最近は、ベース接地回路の実験やコレクタ接地(エミッタフォロワ)回路の実験もやっております。
そこで、エミッタ接地回路との差について、必然的に考えるわけですが、その際、これまで定性的な理解にとどめておりました、「回路の入力インピーダンス」という概念が重要性を帯びてきております。
即ち、入力インピーダンスを定量的に数字で表さなければならない段階に来た、ということです。
初期の方に、手を動かしやったことがあった解析ですが、あまり必要性を感じずスルーしてきました。
ここでは、トランジスタにおける入力抵抗を定量的に求めることを目的とします。
計算方法
トランジスタの全体像
入力抵抗を計算するに先立って、NPNトランジスタを絵で見てみましょう(図1)。
ベースに接続されているPからN方向へ電流が流れるように、順方向に電圧\(V_{\rm BE}\)がかかっております。
これにより、Pに+電荷(ホール)を、下側のNに電子をどんどん注入しているわけであります。
\(V_{\rm CC}\)は、上側のNに+を繋いでいますので、ベースからコレクタへのPN接合としてみると、逆バイアスがかかっていることになります。
ベースのP部分は実際に、長さが短くなっているので、絵でも短くしております。
(詳しい原理は成書参考のこと)
また、何気に凄い重要なことだと思うのですが、P型半導体には多くはホールが存在しているものの、電子も少数は存在しています。
N型半導体も同様に、支配的な電荷は電子ですが、ホールも少数混ざっております。
話を進めまして、この絵のトランジスタのベースとエミッタの部分を取り出して見てみますと、PN接合になっていることがわかります。
このことから、PN接合部に流れる電流と電圧の関係は、ダイオードの物理で議論できますよー、ということが言えます。

トランジスタの中に見られるダイオード構造
PN接合部だけを取り出した絵が、図2の絵の左側になります。
このPN接合部だけみますと、先ほども書きました通り、右側の回路図と同等です。
このダイオードに流れる電流を\(I_{\rm D}\)、ダイオードにかかる順方向電圧を\(V_{\rm D}\)とします。
\(I_{\rm S}\)を飽和電流(ダイオードが逆バイアスされたときの電流)とすると、この\(I_{\rm D}\)と\(V_{\rm D}\)の関係式は、
\begin{equation}
I_D = I_{\rm S}( {\rm exp}\frac{qV_{\rm D}}{kT} – 1) \tag{1}
\end{equation}
と表されます。
この二項目の-1ですが、展開すると、\(-I_{\rm S}\)です。
こいつは、P型やN型に存在する少数キャリアが、電場に引っ張られて流れるドリフト電流の項なのか、何らかの境界条件を課して物理を解くと、必然的に表れる項なのか、僕では判断が付きません。
(詳しい人教えてください。)
ともあれ、式(1)のようになります。

絵をみますと、エミッタ電流とベース電圧の関係式は、そのままダイオードの関係式を使う事が出来るということがわかります。
\begin{equation}
I_E = I_{\rm S}( {\rm exp}{\frac{qV_{\rm BE}}{kT}} – 1) = I_{\rm S}( {\rm exp}{\frac{V_{\rm BE}}{mV_{\rm T}}} – 1) \tag{2}
\end{equation}
また、熱電圧\(V_{\rm T}\)は式(3)で表されます。
\begin{equation}
V_{\rm T} = \frac{kT}{q} \tag{3}
\end{equation}
\(I_{\rm S}\) : 飽和電流
\(V_{\rm T}\) : 熱電圧
\(q\) : 素電荷 (\(1.602176 \times 10^{-19} \rm C\))
\(k\) : ボルツマン定数 (\(1.380648 \times 10^{-23} \rm JK^{-1}\))
\(T\) : 絶対温度
\(m\) : エミッション係数
飽和電流\(I_{\rm S}\)は、温度に依存する定数で、室温では、\(10^{-12} – 10^{-18} \rm A\)程度なので、式(1)を展開して、 \(-I_S\)の項はほぼ0なので
\begin{equation}
I_E \simeq I_{\rm S} {\rm exp}{\frac{V_{\rm BE}}{mV_{\rm T}}} \tag{4}
\end{equation}
と近似できます。
さて、エミッタ電流とベース電圧の関係式がわかったところで、トランジスタを等価回路で置き換えてみましょう。
トランジスタの等価回路
図3の一番左にある、トランジスタを直流を流した場合の等価回路で置き換えてみます。
まずは、先の議論から、PN接合部をダイオードで置き換えます。
次に、図3真ん中の絵を見ますと、ベースの入力に抵抗があることが見て取れますね。
ベース領域は、空乏層があるため、動ける電荷が少ないです。
そのために現れる抵抗で、ベース抵抗\(r_{\rm b}\)と呼ばれており、値は50~500Ω程度です。(この理屈はまだフォロー出来ていません。)
最後にコレクタ側にある、電流源ですが、こいつは、トランジスタの電流増幅作用を定電流源で表したものです。
ですので、トランジスタの増幅の式\(I_{\rm C} = h_{\rm FE} I_{\rm B}\)が添えてあります。
以上の順序で、直流の場合の等価回路(図3真ん中)が出来ました。
次に微小信号をベースに入力した場合の等価回路を考えます。
すると、図3一番右の図のように、ダイオードを抵抗\(r\)で置き換えることが出来ます。
その理由を考えてみましょう。

微小信号においてダイオードが持つ抵抗
ダイオードの電圧と電流の関係は、上述しました通り、指数関数のグラフになります。
入力信号が微小であれば、信号による電圧・電流の変化も非常に小さいということになります。
そのため、電圧と電流の関係が指数関数的に変化するとしても、変化が小さければ、定数値を持つ抵抗とみなすことが出来るわけです。
この抵抗を入力抵抗と呼んだりするようです。(呼び方は色々あるかもしれません。)
この図は、関数が\(I_1\)、\(V_1\)で接する場合を示しています。
図4に300 K で、エミッション係数\(m = 1\)、\(I_{\rm S} = 10^{-12}\)として計算させました。
図4の\(I_{\rm E}\)の関数の接線の傾きが1/rとなります。
その理由は、オームの法則にあります。
\begin{align}
rdI_{\rm E} &= dV_{\rm BE} \\
\frac{dI_{\rm E} }{dV_{\rm BE}} &= \frac{1}{r} \tag{5}
\end{align}

さてこの式(2)を微分しますと、
\begin{align}
I_{\rm E} &= I_{\rm S} {\rm exp}{\frac{V_{\rm BE}}{mV_{\rm T}}} \\
dI_{\rm E} &= \frac{ I_{\rm S}}{mV_{\rm T}}{\rm exp}\frac{V_{\rm BE}}{mV_{\rm T}}dV_{\rm BE} \\
\frac{dI_{\rm E} }{dV_{\rm BE}} &= \frac{ I_{\rm S}}{mV_{\rm T}}{\rm exp}\frac{V_{\rm BE}}{mV_{\rm T}}\\
\frac{dI_{\rm E} }{dV_{\rm BE}} &= \frac{ I_{\rm E}}{mV_{\rm T}} \tag{6}
\end{align}
ですので、式 (5)と比較すると、
\begin{align}
\frac{dI_{\rm E} }{dV_{\rm BE}} &= \frac{1}{r} = \frac{I_{\rm E}}{mV_{\rm T}} \tag{7}
\end{align}
よって入力抵抗rは、
\begin{align}
r= \frac{mV_{\rm T}}{I_{\rm E}} \tag{8}
\end{align}
室温300 Kのとき、式(8)は、
\begin{align}
r= \frac{0.026}{I_{\rm E}} \tag{9}
\end{align}
で求められます。
実験等でも、エミッタ電流がわかれば、室温ならば入力抵抗が求められるという事ですね。
温度依存してベース電圧は変わってしまうので、温度をきちりと測定できる環境があれば尚、精密な実測値が得られると思います。
また、\(I_1\)、\(V_1\)を少しでもずらせば、傾きが大きく変化することはグラフからもわかります。
即ち、少しでも\(I_{\rm E}\)の値が変われば、入力抵抗の値も大きく変化する可能性があるということです。
なかなかどうして長くなりましたが、これで入力インピーダンスを求める準備は終了です。
これで、トランジスタの各接地回路での、回路の入力インピーダンスや出力インピーダンスの比較など出来ることと思います。
実験の実際的な解析が出来るので、テンション上がります!!!