新年明けましておめでとうございます。
去年は、色々ありましたが、様々な点で多くの進展がありました。
こと技術に関することのみならず、たぬき製作所も開業したことが大きかったですね!
様々な可能性について追求していこうと思っております。
さて、今回は箱状の装置の熱計算をざっくりやってみようと思っております。
だいたい、装置の中には色々な回路が入っており、発熱しておるわけで、熱をどんどん装置の外側に逃していかないと、熱暴走を起こすわけです。
熱暴走を避けるためには、熱計算は必須!ということで、具体的に計算してみようという試みであります。
例によって、僕も、その手の熱計算をやったことがなかったので、初めて勉強してまとめたことを書いていきます!
目次
熱の伝達方法と今回の条件
熱の伝達には、3種類ありまして、それらを全て計算で求め、足し合わせるというのが主な手法になっていきます。
まずは、熱の伝わり方にはどんなものがあるか、ざっくりと見ていきましょう!
(ここでは、熱の伝わり方の種類を知ることを優先するため、物理的な正確さを追求した説明にはなっておりません。)
熱伝達の三つの種類
伝導

伝導とは、同じ物質や流体の中を高温から低音へと熱が移動していく熱の伝わり方です。
特に金属では1. 格子振動による熱の伝搬と2. 伝導電子による伝搬の二つの原因が合わさっております。
絶縁体は動くことの出来る電子が非常に少ないので、伝導率が一般的に悪いということが知られておりますね。
対流
これは、みなさんが一番馴染み深いかもしれません。
空気や液体が温度により密度が変化し、熱の流れが生じる現象ですね。
放射
こいつは、一見馴染みがないのですが、熱くなった石とかを思い浮かべていただければと思います。
焼けた石に手を近づけるとやたら暖かく感じると思いますが、あれは、石が赤外線を放射することによって、人間が暖かさを感じておるのであります。
これは、赤外線という波を送っているのであって、熱そのものを送っているわけではありません。
電磁波エネルギーが人間に到達すると、熱エネルギーへと変換されているのです。

さて、これらの3種類の熱についてそれぞれ計算して足し合わせれば、熱計算が出来るというわけです。
具体的な条件設定
熱計算をする際の具体的な設定について決めておきましょう。

今回は、ステンレスで構成された密閉筐体の箱状筐体(厚さt = 10mm)を仮定します。
タンクの外部環境は、屋内の工場を想定し、安定した空調のもと空気がゆったりと流れているものとします。
また、回路および部品の発熱の総計を50 Wとします。(計算方法は後に述べます)
勉強のため、筐体内部にファン(型番:F614T-05MC)を一つ付けます。
・ステンレス筐体を想定
・筐体内部は50℃、筐体外の大気温度は20℃
・設置場所は屋内の工場
・装置由来の発熱は50 W
・筐体内部にファンを一つ
箱状制御装置の熱計算および温度設計
立式の全体像
熱の移動を考える際、発熱と放熱の二つの性質があり、それぞれについて値を求める必要があります。
その際に重要なのが、タンク内の発熱量とタンクの外へ逃げる放熱量との関係です。
発熱量が放熱量より大きい場合は、エネルギーが増え続けるため、温度が上昇し続け、熱暴走に至ります。
そのため、どのような時でも、タンク内の発熱量より放熱量の方が大きくならなければなりません。
発熱量の方が放熱量より大きい場合は、ファンなどをつけて換気する必要となります。
\begin{equation}
タンク内発熱量 < タンク外放熱量 \tag{1}
\end{equation}
前提条件として、以上の条件を満たすように設計する必要があります。
発熱量の計算方法
使っている部品の中で発熱が多いと思しきものや、可能ならば全ての部品について個々に発熱量[W]を計算して足しあわせます。
例えば、三菱の漏電ブレーカを扱っているなら、ネットで検索すると消費電力が出てきます。
例えば、以下のサイトなどです。
出展:三菱ノーヒューズ遮断器・ 漏電遮断器 テクニカルニュース
こういった情報をもとに、ちまちまと足しあわせていくというのが基本となります。
意外にも、ネットで調べれば消費電力の情報はありますので、結構楽に出来るかもしれません。
放熱量の計算方法
放熱の計算式は以下に従います。[]の中は、単位を示しており、今後なるべくのところ単位ありで表記していきます。
\begin{equation}
q[\rm W] = U[{\rm W/m^{2} K}] \times S[{\rm m^2}] \times \Delta T[\rm K] \tag{2}
\end{equation}
\(q\) : 密閉筐体の放熱量
\(U\) : 熱通過率
\(S\) :熱が通ることが出来る筐体表面積
\(\Delta T\) : 筐体内目標温度 – 筐体外の大気温度
qは全体の放熱量を示しており、1秒あたりどれくらいの熱を筐体の外へ放出するかを示す値となります。
Uは、筐体の表面積1[m\(^2\)]、筐体内部の雰囲気温度と外の大気温度との温度差1[K]あたりの熱通過量[W]を示す値であり、筐体の枠に使われている物質やファンの有無などで、大きく変わる値です。
Sは熱が通ることが出来る筐体の表面積です。
今回は、地面が接地しているので、熱の通り道は地面に接地していない部分の面積の総和となります。
この式から、\(\Delta T\)と表面積\(S\)は定数なので、熱通過率Uの値が大きく放熱量に効いてくるということがわかります。
つまり、精度を求めるなら、熱通過率Uは、ある程度真面目に計算したほうが良いということになります。
熱の通る面積Sの計算方法
まずは簡単に計算できる、筐体の表面積Sを計算しておきましょう。
幅 : 300 [mm]
奥行き : 400[mm]
高さ : 500[mm]
地面に接地している部分は熱の通り道にならないため、熱が通る道として計算に入れません。
\begin{eqnarray}
S &=& 300 [{\rm mm}] \times 400[{\rm mm}] + 300[{\rm mm}] \times 500 \times 2 + 400[{\rm mm}] \times 500 \times 2 \\
&=& 0.82[{\rm m^2}] \tag{3}
\end{eqnarray}
\(\Delta T\)の計算方法
\(\Delta T\)は筐体内目標温度 – 筐体外の大気温度を示しております。
今回の条件では、筐体内目標温度は50℃、筐体外の大気温度は20℃なので、温度差をKに変換すると
\begin{equation}
\Delta T = (50 + 273.15)[K] – (20 + 273.15)[K] = 30[K] \tag{4}
\end{equation}
となります。
熱通過率Uの計算方法
熱通過率U[W/\({\rm m^2 K}\)]を表す一般式は式(1.5)で表されます。
\begin{equation}
U = \frac{1}{\frac{1}{h_1} +\frac{t}{\lambda} + \frac{1}{(h_0 + h_{\epsilon} )}} \tag{5}
\end{equation}
\(h_{\rm 1}\) : 筐体外部の対流熱伝達率[W/\({\rm m^2 K}\)]
\(h_{\rm {\epsilon} }\) : 筐体外部の放射熱伝達率[W/\({\rm m^2 K}\)]
\(h_{\rm 0}\) : 筐体内部の対流熱伝達率[W/\({\rm m^2 K}\)]
\(t\) : 筐体の厚み[mm]
\(\lambda\) : ステンレスの熱伝導率[W/\({\rm m K}\)]
以下の図\ref{netu}を見ると3つの色で熱の移動方向が示されております。
熱は高い方から低い方へ流れていくので、矢印のように流れていくわけです。
上述したように、熱には3種類の伝わり方、対流・伝導・放射が存在します。
その種類によって大まかに三つに分類しました。
赤色の矢印で示したように、筐体内部では、空気の局所的な温度差により対流が生じます。
次に、オレンジ色の道は、ステンレスを通って大気の外部へと通ずる道であり、熱の伝わり方は伝導に相当します。
ステンレスは合金であるため、精密な熱伝導率の算出は難しいような気がするけれど、ある程度の精度で計算することにしましょう。
最後に、青色は筐体外部の対流熱伝達率と放射熱伝達率を合わせたものとなります。
対流熱伝達率は筐体内部のものと同じ概念だが、放射熱は物体から出る電磁波エネルギーによる熱の移動なので別の概念です。

これらをそれぞれ計算し足し合わせることで、熱がどれくらい通過していくのかを算出することが出来ます。
筐体内部の対流熱伝達率\(h_{\rm 1}\)の計算方法
筐体内の対流は自然対流とファンによる対流の足しあわせとなります。
使用する、ファンはF614T-05MCです。
ネットで調べると、最大風量は0.36\({\rm m^3/ min}\)です。

風速は熱伝達率に変換できることが、実験的に知られており、そのグラフを読み取り、風速から熱伝導率を求めることにしましょう。
IEC62194(2005-08)に記載の『風速に対する熱伝達率』の値を以下に引用します。

ここで、風速の単位を見ると[m/s]なので、風量0.36\({\rm m^3/ min}\)と比較できないことに気づきます。
そのため、風量から風速を導かなければなりません。
ファンの風量Qは、式1.6に従うようです。
\begin{equation}
Q {\rm [m^3/min]}= A {\rm[m^2]}\times v{\rm [m/s]} \times 60{\rm [s]} \tag{6}
\end{equation}
\(Q\) : 風量[\({\rm m^3/ min}\)]
\(A\) : 吐き出し口の面積[\({\rm m^2}\)]
\(v\) : 風速[m/s]
吐き出し口の面積は、F614Tの図面を見ないとわからないため、以下にネットより転載した図面情報を載せておきます。
この図面から、吐き出している部分の面積を求めることが出来ます。
ここでは、風を吐き出す部分を正方形として粗く見積もって、\(A = 50{\rm [mm]} \times 50{\rm [mm]} = 0.0025{[\rm m^2}]\)としました。
この結果を用いて式(1.6)を逆算すると風速$v$が求まり、\( v = 2.4\)[m/s]であることがわかります。
自然対流が一般的にどれほどであるか不明だけれど、それを加味して中で起きている風速は2.5[m/s]としましょう。
風速を求めることが出来たので、先ほどのグラフにプロットして、筐体内部の対流熱伝達率を求めると\(h_{\rm 1} = 12.94{\rm[W/ m^2 K]}\)となります。
ステンレスの熱伝達率の計算方法
厚みのある物質における熱伝導の計算式は、以下に従う。
\begin{equation}
\frac{t}{\lambda} \tag{7}
\end{equation}
\(t\) : 厚み[mm]
\(\lambda\) : ステンレスの熱伝導率[W/\({\rm m K}\)]
ステンレスの熱伝導率の値をネット上で調べてみましょう。
\(\lambda\) = 16.3程度であることが多くのサイトで報告されています。
また、厚み\(t\) = 10[mm] = 0.01[m]としました。
代入して計算すると、
\begin{equation}
\frac{t}{\lambda} = \frac{0.01}{16.3} = 0.000615 \tag{8}
\end{equation}
と算出されました。
筐体外部の対流熱伝達率\(h_{\rm 0}\)の計算方法
筐体外部の対流熱伝達率は内部の対流熱伝達率の求め方と同じです。
ここでは、工場の大気の風速を0.5[m/s]とします。
先に求めた方法と同様にグラフにプロットすると、
\begin{equation}
h_{\rm 0} = 4.5 \tag{9}
\end{equation}
であることがわかります。
放射熱伝達率\(h_{\rm \epsilon}\)の計算方法
放射熱伝達率は以下の式に従います。
\begin{equation}
h_{\rm \varepsilon} = \sigma F \varepsilon \frac{\{(T_{\rm h0 }+ 273.15)^4 – (T_{\rm 0 }+ 273.15)^4\} }{T_{\rm h0 } – T_{\rm 0 }}\tag{10}
\end{equation}
\(\sigma\) : ステファンボルツマン定数 = \(5.67 \times 10^{-8}[{\rm W/m^{2} K^4}]\)
\(F\) : 形態係数 = 1
\(\varepsilon\) : 放射率
\(T_{\rm h0 }\) : 筐体外の壁面温度[K]
\(T_{\rm 0 }\) : 大気温度[K]
ステンレスの放射率をネットで調べると、以下のような値でした。
出典:Fluke 放射率表
今回は高温での測定を条件としているので、短波長の光による測定の方が精度が高くなります。
そのため、放射率は波長1.0μmで測定された結果である0.35を使用することとします。
筐体外の壁面温度は、内部の温度と外部の温度差の半分を大気温度に足したくらいだろうと考え、
\begin{equation}
T_{\rm h0} =T_{\rm 0} + \frac{T_{\rm h0 }+ T_{\rm 0 }}{2} = 20 + (50 – 20)/2 = 35 \tag{11}
\end{equation}
35℃と推定しました。
これらの値を式(1.10)に代入して計算すると、
\begin{equation}
h_{\rm \varepsilon} = 5.67 \times 10^{-8} \times 1 \times 0.35 \frac{(35+ 273.15)^4 – (20+ 273.15)^4 }{308.15 – 293.15} = 2.16 \tag{12}
\end{equation}
となります。
これでようやく全ての伝達率の値が求まったので、式(1.5)で表される熱通過率Uを計算することが出来るわけです。
熱通過率Uの算出
これまで算出された値を整理しておきましょう。
求められたパラメータ | 値 |
\(h_{\rm 1}\) | 12.94 |
\(t/\lambda\) | 0.000615 |
\(h_{\rm 0}\) | 4.5 |
\(h_{\rm \varepsilon}\) | 2.16 |
これらのパラメータを用いて、熱通過率Uを求めると
\begin{equation}
U = \frac{1}{\frac{1}{12.94} +0.000615 + \frac{1}{(4.5 + 2.16 )}} = 4.385\tag{13}
\end{equation}
となります。
放熱量\(q\)の算出
これで式(1.2)を求めることが可能となりました。
\begin{equation}
q[\rm W] = 4.385\times 0.82 \times 30\rm K] = 107.871
\end{equation}
よって、108[W]以下の発熱量なら、耐えることができることがわかります。
内部発熱量を50Wとした場合、残り57Wの余裕があります。
なので、残り57W分発熱しても熱的な問題はないということになります。
熱計算に必要なパラメータ一覧
計算に必要なパラメータだけ以下に表にしてまとめておきます。
下記の表と、熱伝導率と風速の関係グラフさえあれば、今回の熱計算を行うことが可能です。
計算に必要なパラメータ | 変数名 | 値 |
筐体内部の温度 | \(T_{\rm 1}\) | 50 [℃] |
筐体外部の大気温度 | \(T_{\rm 0}\) | 20 [℃] |
幅 | W | 300 [mm] |
奥行 | D | 400 [mm] |
高さ | H | 500 [mm] |
筐体外部の壁面温度 | \(T_{\rm h0}\) | 35 [℃] |
筐体を構成するステンレスの厚み | \(t\) | 10 [mm] |
ステンレスの熱伝導率 | \(\lambda\) | 16.3 |
工場の大気の風速 | 0.5 [m/s] | |
ファンの風量 (F614T-05MC) |
\(Q\) | 0.36 [\({\rm m^3/ min}\)] |
ファンの吐出口の面積 | \(A\) | 0.0025 [\({\rm m^2}\)] |
ステファンボルツマン係数 | \(\sigma\) | \(5.67 \times 10^{-8}[{\rm W/m^{2} K^4}]\) |
形態係数 | \(F\) | 1 |
ステンレスの放射率 | \(\epsilon\) | 0.35 |