回路技術

トランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【4】:電圧増幅回路の設計とLTSpiceによる詳細なシミュレーション

エミッタ接地増幅回路ってのは、電圧を増幅するもので、電流増幅はエミッタ接地増幅回路の主な部分ではない、という事をプロから言われ、なるほど、、、と思った今日この頃。
電圧増幅は難しそう+ファンクションジェネレータがないという理由で忌避していたけれど、今やオシロもファンジェネもゲットしたのでやらざるを得ない!!

ということで、今回は電流帰還バイアス回路よりもっと簡単な回路で、エミッタ接地回路の電圧増幅を見ていきたいと思います。

さて、今回の目標は入力電圧の10倍の出力電圧を得る回路を作ろう、というものです。
早速設計してみましょう。

回路図と電圧増幅回路の設計

エミッタ接地回路図1 エミッタ接地回路

 

回路は結構やさしく見えるけれど、実際解析してみると奥深い。。。
というか、エミッタ接地回路自体結構深く、完全な理解となると結構難しく感じています。

\(V_{\rm in}\)の10倍の\(V_{\rm out}\)を得るための設計

最終的には、\(V_{\rm out}\)が\(V_{\rm in}\)の10倍の出力になるよう設計します。
そのために設計できる定数は、二つの抵抗しかないので、まず\(R_1\)を求めましょう。(C1は直流成分をカットするものとして機能しています)
\(R_1\)にかかる電圧は、

\begin{align}
V_1 = V_{\rm in} – V_{\rm BE}
\end{align}

トランジスタに着目すると、エミッタに流れる電流はベース電流とコレクタ電流の総和になるので、\(R1\)に流れる電流は、

\begin{align}
I_E = I_B + I_C
\end{align}

ここで、\(I_B\)はコレクタ電流に比べて非常に小さいので、0とみなせます。
ゆえに、

\begin{align}
I_E  \simeq   I_C\tag{0}
\end{align}

オームの法則から、\(R_1I_E = V_1\) なので、

\begin{align}
I_E  =  \frac{1}{R_1}(V_{\rm in} – V_{\rm BE})\tag{1}
\end{align}

\(R_2\)に流れる電流は\(I_C\)だけど、\(I_E  \simeq   I_C\)としたので、先ほどの結果式(1)を使えます。
\begin{align}
V_{\rm out} =  V_{\rm CC} – R_1I_C = V_{\rm CC} – \frac{R_2}{R_1}(V_{\rm in} – V_{\rm BE})\tag{2}
\end{align}

ここで、トランジスタがオンの時は、\(V_{\rm BE}\)は定電圧となり、\(V_{\rm CC}\)は直流電源なので一定値であります。
定数項をまとめてC(定数)とすると、

\begin{align}
V_{\rm out} =  – \frac{R_2}{R_1}V_{\rm in} + C \tag{3}
\end{align}

この式をみると、\(V_{\rm out}\)はV\(V_{\rm in}\)の-X倍になるということがわかります。
さらに、マイナスがかかっているので、入力信号を反転して振幅をX倍させることができます
世に言う、反転増幅という言葉はこの式に端を発しておりますので、事実だけでも知っておくと良いと思われます。

増幅率を何で決めるのか?というと、式(3)より\(R1\)と\(R2\)の抵抗の比で決まることがわかります。
しかし\(R1\)か\(R2\)どちらかを適当な値に決めてやらないと、決まりません。(決め方がわからないです。。)

よって、\(R1 = 1 {\rm k\Omega}\)とします。すると、10倍の出力電圧を得るためには、\(R2 = 10 {\rm k\Omega}\)にすれば良いということがわかります。

 

具体的な\(V_{\rm in}\)と\(V_{\rm out}\)の決定

ここでは、僕としては初めて入力にsin波を入れてみようと思います!
これまでは、直流の実験ばかりしてきたけれど、ファンクションジェネレータもゲットしたので、(オシロスコープとファンクションジェネレータを買った記事はこちら →)波を印加することが可能となりました。
ここでは、

\begin{align}
V_{\rm in} =  1 + 0.1\sin \omega t \tag{4}
\end{align}

としました。周波数fは100 Hzとします。\(\omega = 2\pi f \)なので、式(4)は結局

\begin{align}
V_{\rm in} =  1 + 0.1\sin 2\pi f t = 1 + 0.1\sin 200\pi t \tag{5}
\end{align}

式(5)を\(V_{\rm out}\)に代入して具体化すると、(\(V_{\rm BE} = 0.6 \rm V\)とします。)

\begin{align}
V_{\rm out} = V_{\rm CC} – 10(V_{\rm in} – V_{\rm BE}) =  V_{\rm CC} – 4 – \sin 200 \pi t \tag{6}
\end{align}

振幅は10倍となっており、間違いなく交流成分は増幅している(マイナスが付いているので反転もしています)
直流成分も10倍にしたいということならば、式(6)から\(V_{\rm CC} = 14 \rm V\)とすればよいことがわかります。

 

LTspiceによる詳細なシミュレーション

入力電圧が直流のみの場合を扱って実験やシミュレーションを行ってきました。
今回は、交流の波を入力波として扱うため、一気に回路の挙動が想像しにくくなりました。
入力電圧が直流のみの実験の場合は、時間軸に対して電圧は一定であると考えていたので、基本的に時間軸を考慮することがありませんでした。
しかし、交流となるとそうはいきません。
時間ごとに周期的に電圧が変化しているので、その変化に伴いその時々で電圧が変わります。
さらに、直流と交流が混ざることでややこしさが増します。

正直、この回路の見た目は至極単純であるが、理解に関しては未だ完全ではなくおぼつかない点が多いです。
回路の挙動に対する実感が乏しく、まだ腑に落ちていない部分があります。
実験をやってはみたものの、回路が正しく動いているのかよくわからなかったり、挙動が怪しかったりと、色々困っております。

そこで、まずはシミュレーションにより、ざっくりとした回路の振る舞いをみてやる必要を感じたので、いつもより細かくシミュレーション結果を載せます。

シミュレーションの回路図

LTSpiceで計算させた回路図図2 LTspiceで計算させた回路図

 

LTspiceで使った回路図を図2に載せています。
LTspiceのインストールの方法や命令の仕方は、他の記事に詳細に載せているので、そちらを参照ください。
LTspiceのインストール方法
NPNトランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【1】の「LTspiceによるシミュレーション」に載せてあります。

また、LTspiceでは2SC1815モデルを登録してシミュレーションに使用することが出来ます。
その方法を以下の記事の「LTspiceによるシミュレーション(2SC1815モデルの追加)」で紹介しておりますので参考にして頂ければ!
トランジスタ(2SC1815)を2つ使った定電流回路のシミュレーションと電子工作・その結果

 

シミュレーション結果

この回路の実験をしていたら \(V_{\rm CC} = 0\)の時に、入力した波と同じ波が出たり、0 Vの直流のようになったり、挙動が実験ごとに変わるという現象が生じました。
\(V_{\rm CC}\)を上げていくと、複雑な形状を取りながら、波が反転するさまが見えることもあり、実験だと何があっているのかわからん。。。という状態でした。
0Vから、反転するまでの立ち上がりの部分を詳しく見ていきましょう。

2SC1815の静特性図3 2SC1815の静特性

\(V_{\rm CC} = 0\)と \(V_{\rm CC} = 2\)の時は、普通に入力の正弦波が \(V_{\rm out}\)から出ています。
この時点で、少し謎がありました。
入力には、1 Vの直流も入っているので、トランジスタは常にON状態だと思っていました。
なので、多少なりとも増幅するものかと思っていたけれど、よく考えればエミッタコレクタ間電圧が非常に低い状態です。
これは最初に行ったエミッタ接地の失敗実験で実感したことであります。
2SC1815の静特性(図3)を見てもわかるように、エミッタコレクタ間電圧があまりに低いと、増幅することがかなわず、コレクタ電流はあまり流れないのです(図3の赤丸の部分)。

実際、\(V_{\rm 1}\)と\(V_{\rm OUT}\)はほぼグラフが重なっており、エミッタコレクタ間電圧\(V_{\rm CE} = V_{\rm OUT} – V_{\rm in}\)なので、ほぼ0ということがわかります。
故にコレクタ電流はきちりと増幅されないのです
また、\(V_{\rm OUT}\)の電圧が下がっているのは、\(V_{\rm BE}\)だけ電圧が下がっているためでしょう。\(V_{\rm OUT}\)は\(V_{\rm in}\)より0.6~0.7 V落ちているのがわかります)

\(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm out}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 0 \rm V\))図4 \(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm OUT}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 0 \rm V\))

 

次に、\(V_{\rm CC} = 2.5 \rm V\)の時を見てみると、\(V_{\rm OUT}\)の波の谷の部分がつぶれて平らになっていく様が伺えます。
何故、波形がフラットになっていくのか、ようわからん。。。。

けれど、一つ言えるのはバイアスがあがると、\(V_{\rm OUT}\)と\(V_{\rm in}\)のグラフが完全に重なっているわけではなく、少し溝があいています。\(V_{\rm CC}\)が0の時のグラフ図3と比較してほしい)
そのため、エミッタコレクタ間電圧に少し空きが出来たのだろうと思われます。

 \(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm out}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 2.5 \rm V\))図5 \(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm OUT}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 2.5 \rm V\))

さらに、\(V_{\rm CC}\)を印加していくと、図4において\(V_{\rm OUT}\)の平であった部分からいきなりにょきっと山が現れ始めます(時間軸の5~10msの部分)。
\(V_{\rm CC}\)が3.5 Vになるとさらに、新しい山の振幅は大きくなっています。
時間軸で0 ~ 5msの部分の小さい山は図4の部分と変化がない。
この\(V_{\rm OUT}\)の5 ~ 10msの間に山が生じる原因は、この山になっている部分でエミッタコレクタ間電圧の空きが増えて、トランジスタの増幅作用が働いたためだと思われます。

VinとVoutの振る舞い( \(V_{\rm CC} = 3, 3.5 \rm V\))図6 \(V_{\rm in}\),  \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm OUT}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 3, 3.5 \rm V\))

さらに \(V_{\rm CC}\)を印加してみると、0 ~ 5msの部分に変化が現れ始めます。
小さい山が少しずつ平らに近づいていき、平らである部分の幅も狭まっております。
\(V_{\rm CC}\)が4 Vと4.5 Vでは変化が顕著で、4.5 Vでは山が消失して平らになっており、三角関数の波の形に近づいています。
おそらく、よりバイアスを上昇させれば、綺麗な三角関数の波に近づいていくのだろうということが感覚的には理解できます。

\(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm out}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 4, 4.5 \rm V\))図7 \(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm OUT}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 4, 4.5 \rm V\))
\(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm out}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 5 \rm V\))図8 \(V_{\rm in}\), \(V_{\rm BE}\), \(V_{\rm 1}\)および\(V_{\rm OUT}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 5 \rm V\))

VCCが5 Vになると、\(V_{\rm in}\)の波を反転した波形になることがわかった(図8)。
この状態では全ての時間範囲において、 \(V_{\rm OUT}\)は増幅されているということだ。
これ以上バイアスをあげても、\(V_{\rm OUT}\)の振幅の電圧増幅という観点からは意味がなく、ベースの直流電圧があがっていくだけである。

\(V_{\rm in}\)の振幅が0.1 Vであるのに対し、\(V_{\rm OUT}\)は1 V弱であることが、グラフからも見て取れる。
すなわち、入力の10倍の反転増幅が起きていることがわかる。

設計予定であった入力波の10倍の電圧増幅を行う場合、( \(V_{\rm CC} = 14 \rm V\))でした。
この時のシミュレーションを行ったのが図8です。
実際に、バイアスも10倍になっていることから、10V付近を中心に波が振動している様子が伺えます。

VinとVoutの振る舞い( \(V_{\rm CC} = 15 \rm V\))図9 \(V_{\rm in}\)とV\(V_{\rm out}\)の振る舞い( \(V_{\rm CC} = 14 \rm V\))

さて、なんとなく交流波を印加した場合のトランジスタの電圧増幅の振る舞いが、定性的には把握できました。
次回はこの実験を行う予定です。
ふむむ、LTspice便利過ぎてやばい。。。絶対LTspiceは使った方がよいです!

トランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【5】:電圧増幅回路の挙動をオシロスコープで確認(RIGOLDS1054使用) 会社に入社し、回路の勉強を始めて、5ヶ月目です。 なんだか、あんま進んでない気がしますねー><。 ついに、実験の幾多の問題を乗り...

2019年8月5日追記
このエミッタ接地回路を対称に重ね合わせた増幅回路(差動増幅回路)を使って、3石ディスクリートオペアンプの作成および実験をしました。

NPNトランジスタ3石ディスクリートオペアンプの設計・詳細な実験手順・実験および回路シミュレーション アナログ回路の中では、花形部品のオペアンプ。 教科書にも多数取り扱われておりますが、理論だけ勉強をしてもイマイチ腑に落ちきらない。...

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