電気回路を0から学び始めて6か月が経ちました。
初期の方で、定電流回路を作ってみたのですが、全く意味がわからないままだったので、自分で設計して作れることを目標に今回もっと簡単な定電流回路を作りました。
そのためには、基礎としてエミッタ接地回路の知識は必須なので、それを知らない方は、定電流回路から学ばず、エミッタ接地回路を追求することを切にお薦めします。
というのは、僕はエミッタ接地回路をあまり理解しないまま、最初に定電流回路を作って理解できずに失敗しているからです。
自分は電子回路の知識はほぼまっさらな状態から始めておりますので、過去の記事を追うと、学習の順番の参考になるかと思います。
エミッタ接地回路の実験とシミュレーションの記事もありますので、良ければそちらもご参照下さい。
→ トランジスタ(2SC1815)を2つ使った定電流回路のシミュレーションと電子工作・その結果
→ NPNトランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【1】:挙動を実験とLTSpiceで確かめる(失敗実験)
→ NPNトランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【2】:設計と実験およびLTSpiceによるシミュレーション(固定バイアス回路)
→ トランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【3】:設計と実験およびLTSpiceによるシミュレーション(電流帰還バイアス回路による電流増幅)
→ トランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【4】:電圧増幅回路の設計とLTSpiceによる詳細なシミュレーション
→ トランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【5】:電圧増幅回路の挙動をオシロスコープで確認(RIGOLDS1054使用)
目次
目標とする定電流回路の仕様
定電流回路とは何か?
今回の目標は、負荷抵抗(1 kΩ, 2 kΩ)を繋ぐと、2 mAの電流を取り出せる回路にしたいと思います。
条件としては、トランジスタを一つ使う事です。
そもそも、定電流回路とは何か?という部分で、自分はだいぶさまよったので、ここではその説明をしておきます。
図1の左の回路は、左に何らかの回路があり、右に抵抗が一つあります。
左の四角の部分は、どんな回路でも良く、このブラックボッスの部分を我々が設計します。
「何らかの回路」から二本の出力を引っ張ってその間に繋ぐ抵抗を「負荷」と呼びます。
この負荷は我々がする設計とは無関係に繋ぐもので、ここでは定電流の取り出し口です。
図1の右の回路が今回目標とした定電流回路の仕様です。
定電流回路の意味することは、負荷を1 kΩ, 2 kΩと変化させても一定値2 mAの定電流が流れる回路というものです。
今回設計すべき回路は、負荷抵抗の値を変えても、変わらず2 mAを流す回路(何らかの回路と書かれた四角いボックスの部分)となります。

僕の場合の設計
トランジスタの電流増幅から考えた
ブラックボックスである部分を自分で考えるといっても、さてどうしたものか。
トランジスタを使うという条件から、まず思い浮かぶのは、ベース電流を増幅させてコレクタ電流かエミッタ電流をうまく制御して定電流を作れないか?ということだった。
というか、電圧増幅と電流増幅しか今の自分は知らないので、それを使うしかないのです。
そこで思いついたというか、これまで散々やってきた回路を使うことにしました(図2)。
図2の定電圧の部分をどうにかすれば、Rは定数、\(V_{\rm BE}\)も定数、となり\(I_{\rm E}\)も必然的に一定になる、という考えです。
数式で表すと、
\begin{equation}
I_E = \frac{V_{定電圧} – V_{BE}}{R}\tag{1}
\end{equation}
となり、\(V_{\rm BE}\)はトランジスタがONの時は、定電圧とみなせるのですべて定数の式となり、\(I_{\rm E}\)は定電流となります。
定電圧を生み出すにはどうしたら?と考えると、簡単には電池を繋ぐことです。
けれど、それじゃつまらんということで、ツェナーダイオードで定電圧を作ることにしました。
しかし、ツェナーダイオードの使い方がわからんということで、ツェナーダイオードで定電圧を作る方法を調べました。

ツェナーダイオードで定電圧を作る方法
どうやらその方法は、簡単なようで、抵抗とツェナーダイオード繋いで電圧をかけるだけでした(図3)。
もちろん、降伏電圧以上の電圧をかける必要があります。
しかし、抵抗の値をどう決めたら良いかよくわからなかったので、シミュレーションすることにしました。
条件は、10 Vの降伏電圧を持ったツェナーダイオードに15 Vの電圧を繋いで、抵抗値を1 Ω, 10 Ω, 100 Ω, 1 kΩ, 10 kΩと振ってLTspiceによりシミュレーションさせてみました。
LTspiceのインストールの方法や命令の仕方は、他の記事に詳細に載せているので、そちらを参照ください。
→ LTspiceのインストール方法
→NPNトランジスタ(2SC1815)によるエミッタ接地回路【1】

結果は図4に示しておりますが、抵抗値が大きくなるに従い、ツェナーダイオードにかかる電圧は10 Vに近づき、10 kΩではついに10 Vを下回りました。

ということで、抵抗をかませれば定電圧を得られそうということがわかったので、上の定電圧の部分に10 Vのツェナーと1 kΩの抵抗を足してみることにしました。
しかして、R1に繋ぐ抵抗を選ぶ際に、もう少し定量的に値を見積もりたいという希望が我々にはありましょう。
そこで、社長や、他社から来る猛者に聞いてみたところ、「データシート」を見ろ!ということでした。
ははーん、結局データシートかぁ、と思って今回使ったNEC RD10Eのデータシートを探しましたので貼っておきます。
→ NEC RD2.0E ~ RD120Eのデータシート
図5を見てみますと、何やら面白い形のグラフです。
縦軸がツェナーダイオードに流れる電流で、横軸がツェナー電圧です。
僕が使用している、RD10Eを見てみると、赤で囲んだ部分は、ツェナー電圧が一定です。
なので、この一定である範囲内の電流値であれば、定電圧になることが可能ということです。
7 mA位までは定電圧として使える感じがしますね。

最終的に出来た回路
ツェナーダイオードを使って、ベースの電圧\(V_Z\)を定電圧にすることで、\(V_E\)に定電流を流すことが肝であると思います。
その心は式(1)で表された式となります。
上でお話した、10 Vのツェナーを使うことにして、2mA流すように抵抗値Rを計算すると、
\begin{equation}
I_E = \frac{V_{Z} – V_{BE}}{R_Z}= \frac{10 – 0.6}{R_Z} = 2{\rm mA}\\
R = 4.65 {\rm k\Omega}
\end{equation}
負荷Zは1 kΩ, 2 kΩと決まっていますので、あとは\(R_2\)を決めるだけです。
ツェナーダイオードに流れる電流が7 mA以内なら、問題なさそうということですので、\(R_2\)5 mAとして計算すると、
\begin{equation}
R_2 = \frac{V_{CC} – V_{Z}}{5 {\rm mA}} = 1{\rm k\Omega}
\end{equation}
無論、この5 mAのうちいくらかは、ベース電流として流れるわけです。
明確に、ベース電流の値を設計しきれていない点から、この設計はまだ詰めるべき点があります。
今のところ、わからないので保留という形にしておき、何か情報を得たり、理解したら追記させていただきます。

実験に使った部品一覧およびセットアップ
部品一覧
セット購入の部分ですが、よく使う部品がいっしょくたにまとめられて売っているセットがあるので、それを買った方が楽だと思います。
たぬし氏はOsoyooの電子工作部品セット(2080円)を使っています。
装置がそろっている場合は、2095円で実験できます。
部品 | 会社・型番 | 値段 |
直流安定化電源 | CUSTOM社 DPS-3003 | 14091円 |
フレッドボード | 秋月電子 BB-2T2B | 600円 |
テスター | 三和 CD731a | 7980円 |
1 kΩ抵抗 × 2 | セット価格 | |
2 kΩ抵抗 × 1 | セット価格 | |
ツェナーダイオード(降伏電圧10 V) × 1 | NEC社 RD10E | 15円 |
NPNトランジスタ × 1 | Toshiba社 2SC1815 | セット価格 |
総計 | 24766円 |
CD731aは絶版で売られていないので、もう一つは僕が使っていておすすめかつ2018年現在最強のテスターの一つである三和のPC7000を載せておきます。
部品の写真
ケーブルは、上の部品表には書きませんでしたが、秋月電子で買いました。
2SC1815は右側の写真をよくみるとC1815と刻印されているのがわかりますね。
ツェナーダイオード(RD10E)には極性があり、黒い方がカソードになっています。
写真の下に、極性の向きに合わせて、回路図もあわせて載せておきました。
▶︎の右の羽のような部分がカソードを表している、と見ると、回路図も覚えやすいと思います。

実験結果
回路図と実験写真
実験では、4.65 kΩがなかったので、4.7 kΩを代替使用しています。
図10の図は、Fritzingで作成した図です。
非常に簡単に作図出来るので、お薦めのフリーソフトです。
ダウンロードページのリンクを貼っておきます。
→ Fritzingのサイト



実験結果
負荷を1 kΩ、2 kΩと変化させたとき、その間の電圧をテスターで測定しました。
電流はオームの法則から、負荷Z = 1 kΩの時は、1.82 mA, 負荷Z = 2 kΩの時は、1.815 mAなので、ほぼ同じ値をとっています。
どうやら定電流になってはいるようです。
しかし、2 mAで設計したのに、約5 %もずれがあります。
どこにずれが生じているのか、少し探っておきましょう。

ツェナーダイオードにかかる電圧を調べると、9.5 Vで、10 Vから少しずれていることがわかりました。
また、\(V_{\rm BE}\)が0.64 Vでした。
つまり、定電圧の部分がずれているので、流れる電流も変わったということですね。
この結果から、\(I_{\rm E}\)を計算すると、
\begin{equation}
I_E= \frac{9.5 – 0.64}{4.7 {\rm k\Omega}} = 1.885{\rm A}
\end{equation}
となり、ベース電流を足しても、2 mAには届かないことがわかりました。