
たぬしです。
入社してから早7ヶ月が過ぎております。
さて、普段は回路のことを主に書いている当ブログですが、回路設計自体は難解ではあるものの、その回路を実際に動かして製品にする工程もかなり難しい、と最近感じております。
実際にモノを動かすというのは兎に角難しいです。
そう思った経緯をつらつらと書いていこうと思います。
目次
実際に製品を動かすことの難しさ
意外と難しいネジ締め
ネジを締めるなんて行為は、これまでの人生でそこまで根を詰めてやったことがなく、実験においても真空装置のフランジを締める時とかに数本締めたり、真空を引くラジエーションシールドなるものを締めたりする程度でした。

今や装置全体のネジを締めるわけだから、数や種類が莫大に跳ね上がります。
まず、たくさんの部品が乗った基盤を固定するのにネジを使います。
図1にあるようなよく見る基盤を、装置に固定するためにケースなどにネジで止めるわけです。
これも、意外と難しく、基盤のネジ穴と装置の外装部分のネジ穴が微妙に合わなかったりすることがあります。
板金屋さんにお願いして金属を加工して特殊なケースなどを作ってもらっていると、手作りなので、穴位置がずれることがあります。
その他、金属が少し歪んでいたりすると、穴位置が0.5 mmくらいずれたりします。
この0.5 mmに泣くことがそこそこあり、金属なので無理やり歪ませるのも力がいりますし、最悪入らないことがあります。
その他にも、ねじを締める順番が重要なことがあったりして、これが我々を時に悩ませるのです。
例えば、直方体のケースの金属板のねじを締めるとします。
このケースは真空に引くことがあり、空気の流入がないようにせねばならないとしましょう。
こいつのねじを、四隅から先に締めると、金属板がたわんでしまうので、空気が流入してしまう可能性があります。
真ん中あたりから締めて最後に四隅を締めると、金属が押し広げられていくのでいい感じになるということです。
このような、数式で表されない現場の知恵が無限にありまして、未だにねじ締めで様々な注意を受けております。
回路が動作しない原因を特定することが困難
我々が実験するような、小さな回路網でさえ、最初の方は動かず、原因を特定するのに時間がかかったりしますね。
特に、僕のような初心者がユニバーサル基板で配線をすると、難しい上に、まず最初から動くことがありません。
実際の製品ともなると、素子の数は数百倍に膨れ上がりますし、IC等のデジタル回路の部分も増えてきます。
こうなってくると、どこがどう悪いのか見当をつけるのも難しいというわけです。
この修繕作業は、機械を使ったオートメーション処理なんてことは不可能ですから、人間があーでもない、こーでもないと実験勘や回路理論を頼りに様々な視点から探っていくわけです。
時には、装置を動かしているプログラムの方を疑うこともありますし、不具合の可能性は初期の状態では無限にあります。
故に、この手の装置の仕組みを全て理解し、完全に動作させるには、相当の総合力が必要になります。
この総合力なんてものは、一朝一夕で身に着くものではなく、時間をかけるしかないものです。
一般的に、世間で「技術力」と呼ばれているものが、その不具合をピンポイントで見つけ出す唯一の武器になります。
ですので、兎に角経験を積むことと、当該分野の基礎的な理論を理解することが、技術習得に不可欠だと感じております。
関連記事:時代に逆行して、技術習得のために残業しようと思った話
原因不明な現象を回避する手法を編み出すのに時間がかかる
時には、本当によくわからない理由で、ノイズの有無が決まったりすることがあります。
ここは、ぼかして書きますが、僕の経験では部品の位置を0.5 mmずらしただけで、ノイズが消えたり生まれたりするということがありました。
これは、もう回路理論を知っている人でも、この処理を編み出すには相当な時間がかかると思うのです。
というのは、回路自体に問題はなく、きちりとはんだもついていて、どこも悪い所がない、というような状況下で起きた微小なノイズの問題だからです。
これは回路方程式をいくら駆使しようがわかりようのない部分です。
これはスキルで言うと、実験技術の部類に入ると思います。
研究時代でもそうでしたが、このようなモノづくりには、実験の積み重ねによるノウハウが無数にあったりして、それらの集積が高精度なモノを生み出したりしています。
僕はかつて、高純度な結晶を育成したりしていたので、この重要さが身に染みております。
この、理解不能な問題に物理のメスを入れて、定性的にでも原因を追究して蓄積していければ、物理屋としていい仕事をしている気がしますし、今後使える自分が使える技術になりましょう。
外注業者のミス
多くの会社が、全ての工程を自社でやっているわけではなく、何らかの工程を他社に依頼しています。
所謂、外注という奴ですね。
外注した業者も手作業でやっておりますので、ミスる可能性もあります。
そうして、ミスった状態で作られてきたものが、うちの会社に戻ってきて、「さて、続きを作るぞ」となるわけですが、最終段階などで、問題が顕在化してきて、うまく機械が動かなかったりします。
そこで、初めてミスがわかったりするわけですが、この手のミスは、最早自社で防ぎようがありません。
ですので、もはや、ミスはあるものとして本気を出して頑張るしかありません。
新製品の場合、動作が安定しない
新しく設計して、初めて装置を動かすといった場合、基本的にまともに動きません。
この場合、動作はするけれど、安定して長時間動かないなどの問題があり、原因としては回路設計にあることが多い気がします。
設計を少しずつ変えて、安定動作をするようにしなければならず、最初の方が不具合ありきで作ってみるしかないです。
また、時代の移り変わりと共に、使っていた部品がいきなり廃番になったりすることが多々あり、部品選定も常にせねばなりません。
この不具合を初期の段階でいかに減らすかが、設計師の腕にかかっているのでしょうが、大きい装置だと回路は必然的に大規模になるため難しいような気がしています。
大企業では工程が全て分業化されている
さて、上述のように、機械を安定して動かすためには様々な罠が隠されておりまして、問題がたくさんあります。
それらのリスクを分散するために、大きな会社では、分業化されております。
設計は設計だけする人を配置しますし、品質を管理する人、製造する人、部品を調達する人、プログラムを書く人、など○○部のような名前付けがされて完全に部署が分かれているわけです。
そのため、各部署で徹底的に問題を洗い出して、対応しております。
一方で、部署ごとに分割されているため普段設計する人は、製造の現場でモノを作ったりしません。
故に、製造の難しさを設計の人はあまり感じないまま過ぎ去ってしまうのかもしれません。(現にそういう会社があるという情報は得ていますが、多くの大手の製造業がそうであるか断定できません。)
この手の様々な問題に触れられたのは、小さい会社ならではの経験かもしれません。
小さい会社の利点を生かして、様々な経験を積んでいきたいものです。
自分の会社だけで通用するスキルにしないために
改めて考えてみますと、問題に対する対処ノウハウが、単純に現象論としての知識に留まっていると、普遍性がないので、会社だけでしか通用しないスキルになってしまいます。
それを避けるために、それなりに問題について様々な視点から理由を追求した方が良いということと、問題が起きた条件を徹底的にメモっておくことが重要だと思います。
僕は、A4のノートに実験の様々な条件やら問題を研究時代から書いてきたので、その癖で会社でも実験ノートを書いております。
同じ条件で何回も問題が起きたならば、ある程度条件を絞り込めるので、普遍性を持った知識へと整理しやすいでしょう。
また、問題が生じた時になるべく理由を追求することで、当該分野の基礎知識が身につくと思うので、それは後々財産になると思います。
重要点をまとめておくと、
- 問題を場当たり的に対処しないで、問題が起きた条件等をメモっておく
- なるべく問題に対する科学的で理論的な追求を試みる
といった感じでしょうか。
ふーむ、奥深い。。